仕事が終わって一息つく時間帯。
休憩室でT中さんと一緒になりました。
T中さんはこの病院とは別に、午後から3時間、別の場所で清掃の副業をしています。
そこに行く前に、この休憩室でおにぎりや菓子パンを食べてから行くのです。
「何だか今日、腕のこの辺が痛くて…腱鞘炎かも」
T中さんはそう言いながら顔をしかめて、右手の親指の付け根から手首を通って
肘の内側までを指でなぞりました。
痛そうな表情に
「大丈夫ですか?」
と尋ねると
「これから行ってるところのモップが使いにくくて、手が滅茶苦茶痛くなる。
だんだん握力が無くなってきた。
モップの先っぽがうちみたいにクリップ式じゃなくて、ギュッとはめ込まないと
いけないのさ、分かる?
そこさ、オフィスビルで、道具洗うところがお湯が出ないのさ。
ここは病院だから、どこでもお湯が出るからいいけど…」
などと、これから向かう仕事の愚痴が、次から次へと溢れ出してきました。
道具の件もさることながら、お湯が出ない現場の存在に驚いたのですが
オフィスビルだと珍しくはないようです。
天気予報だと明日は昼でも-7℃となっているし、これからの季節は
かなり厳しそう…
「仕事はここよりずっと楽なんだ。
時間に追われないから。
人間関係も良いしね、女の人ばっかりで、皆優しくて。
良い人ばっかりなら、女だけの職場が一番楽。
嫌な人がいたら最悪だけど」
ふとその瞬間、S木さんの顔が浮かびました。
T中さんもS木さんも悪い人ではないのですが、2人の相性が良くないのは
一緒にいて分かるので複雑な気持ちになります。
「はーーーーー」
と、大きく息をつくと、T中さんは
「今から30分くらい横になってから、次行く」
とその場で仰向けになりました。
ある程度年齢を重ねたら、どの職場に行っても100点満点のところなんて
ほとんど存在しないでしょう。
しかも62歳で副業含め、一日8時間清掃の仕事をするのは、かなり厳しいはずです。
だから婚活に力を入れているのかも…と思いつつ、挨拶をして
先に休憩室を後にしました。