休み明けの出勤。
T中さんがあれからどうしたのかが気になり、何となく落ち着かないまま過ごした休日。
私以外は昨日も出勤していたので、事態が動いているかもしれず…
でも出勤するのは私が一番最初で、すぐ現場に直行してしまうため
モヤモヤしながらも、普段通りに仕事を進めました。
途中、T中さんとすれ違って、「おはようございます」と挨拶はしたけれど
廊下で立ち話は出来ないので、それ以上は何もしませんでした。
様子は普段と変わらないようでしたが…
仕事を一通り終え、休憩室に戻ると、S木さんと課長さんがいました。
課長さんが椅子に座って、S木さんは部屋の隅に積まれた座布団の上に腰を下ろし
話をしています。
「お疲れ様です」と声を掛けて、帰り支度をしながら、何気に耳をそばだてていると
2人はやれやれといった口調で話をしているように聞こえました。
T中さんのことを聞こうかどうか迷っていると、S木さんの方から
「T中さんは辞めないからね。
あの人はかまってちゃんだから、いろいろ言うけど」
そう声を掛けてきました。
「そうなんですか。
今また人がいなくなったら、どうなるかと思ってたんですけど」
と答えると、今度は課長さんの方が
「もう、俺も説得役ばっかりで、いい加減疲れてきた。
少し楽させてもらいたいよ」
どうやら、説得は成功したようですが…
そこへ、S木さんがこう付け加えました。
「だから面接でいい人がいたら、2人採用したいって話してたのさ」
2人?
今足りない人員は1人のはず。
まさか…
「どうせS木さんがすぐ断っちゃうから、いつになるか分からんけどさ」
課長さんがそう続けた後、すぐさまS木さんが付け加えました。
「このことはT中さんには絶対言ったらダメだからね」
もちろん言ったりしませんが…
家に帰ってから、いろいろなことが頭をよぎりました。
T中さんはどこまで本気で辞めたかったのでしょうか。
何度も「辞める」と繰り返しているうちに、相手の方から「じゃあ辞めてください」と
言われることは想定していたのか、いなかったのか…
今までの面接を考えると、2人採用されるのはいつになるかわからないけれど
T中さんも一人暮らしなので、年金生活になっても働かなければ生活できないはずなのです。
そして、2人採用の件を聞き、それを秘密として抱えることになって
自分も共犯者にさせられたような複雑な気持ちで、一日を終えることになりました。