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手つかずの缶コーヒー

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新しい守衛さんが決まって少し経ちます。

どうなったのかと思っていたら、新人さんの勤務が始まるのは4月からだそうで

それまでは小柄な守衛さんとセクハラの守衛さんが、2人交代で仕事をこなすそうです。

 

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2人体制になってから、セクハラの守衛さん(仮にXさんとします)と

遭遇する確率が上がって憂鬱でした。

 

以前、手に直に触るようにして

「好きな人に3秒触ると寿命が5秒延びる」

と言いながら塩飴をくれていた人です。

 

この守衛さんは朝、多分駅売りだと思われるスポーツ新聞を読んでいます。

そういう、家庭に配達されないスポーツ新聞に載っていがちな

話題を振ってくるのです。

 

こちらは制服を着て出勤しているので、職場に着いたら上着だけを脱いで

上履きとフェイスシールドを出して、体温を測り、出勤時間と共に記録するくらいの時間しか

守衛室兼休憩室には留まっていないのですが…

 

しかしその数分が苦痛でたまりません。

3畳間に机や座布団などが積まれた狭い空間で、嫌でも距離が近くなるのに

部屋にいるのは私とXさんの2人きり。

 

『セ』で始まって『ス』で終わるような単語を、同性ばかりの酒の席でもない

朝5時半の職場で、なぜ口から出せるのか…?

 

朝はいつも急いで仕事を始めるけれど、守衛さんがXさんの時は特に急ぎます。

 

そんなXさんが今朝、左右のズボンのポケットから缶コーヒーを1本ずつ取り出し

 

「これ飲む?」

 

と2本とも手渡してきました。

 

「これどうしたんですか?」

 

と尋ねると

 

「んー?もらったんだ」

 

とのこと。

 

あれ?2本?

守衛さんは2人…

1本は小柄な守衛さんの分では…?

 

さりげなく断ろうとすると

 

「あのね、年上の人間からの行為を無駄にすると罰が当たるよ」

 

と食い下がられ、結局受け取らざるを得ませんでした。

 

「久々に寿命が延びたさ。

2本で10秒延びた」

 

わざと手が触れるようにして缶を渡された後、そんな風に言われて

何とも言えない居心地の悪さを感じ、急いでバッグにコーヒーを仕舞ってお礼を言うと

早足で道具置き場のところに向かいました。

 

ああいう人はわざわざ寿命を延ばさなくても、素で長生きできるのではないかと思いつつ…

仕事のやる気が削がれること甚だしい朝でした。

 

缶コーヒーは冷蔵庫に入れてあるけれど、なんだか飲む気にならず、そのままです。

 

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最後まで読んで下さって、ありがとうございました

 

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