猫が亡くなってから、私は30分くらい何もしないで
ただぼんやりと横にいました。
それでも目の前で起こったことを、だんだん現実として理解し始めると
悲しむよりも先にしなければならないことが、山ほどあるのに気が付きます。
とりあえず酸素ハウスから出し、元の気に入っていた寝床に寝かせました。
そして、苦しんで亡くなったせいか、狛犬のような表情で固まっている
猫の目を閉じようとしたのですが…
なんだか皮膚がぶよぶよたるんで、上手くまぶたを動かせず
少しずつ手繰り寄せるように閉じさせました。
口のほうはうまく抑えられず少し経つとまた開いてしまう感じだったので
ハンカチを細くたたんで鼻から顎にかけて巻き、輪ゴムでしばらく止めました。
見た目に不謹慎な気がしましたが、急場なので仕方がないとして…
それより腐敗を避けるため、体を冷やさなければなりません。
こんなに早く逝くと思っていなかったから、保冷剤も何も準備していませんでした。
仕方なく冷凍庫から冷凍食品を出し、猫の下に敷いて、体の上にも乗せ
100円均一の店に急ぎました。
買ったのは保冷剤数個と、お線香と、仏壇用の茶湯器と、電池で点く蝋燭もどき。
本当は蝋燭立てと香炉があれば良かったけれど、茶湯器に線香を立てることに。
保冷剤は凍っていない状態のものしか売ってなかったため、とり急ぎ冷凍庫へ。
猫は花が好きだったので、横たわっている身体の周りに花を飾ろうと
ふと思い立ち、いつも行く近所のスーパーではなく、テナントで花屋さんが
入っている大きいスーパーに出かけました。
しかし緊急事態宣言が出ているせいか、その花屋さんが臨時休業中。
仕方なくいつものスーパーへ戻り、普通の花売り場の花束をいくつか買って帰宅。
保冷剤が凍るまで時間が掛かりそうだったので、その間にS木さんに電話をかけて
猫が亡くなったことを伝えると、お勧めのペットの葬儀をする会社の電話番号を教えてくれ、現場まで車で乗せて行ってくれることになりました。
そういった伝手や情報が全然なくて、ネットで見てもどこが良いのか
なかなか分からなかったし、S木さん自身は出勤日なのに、わざわざ
送ってくれるとのことで、ありがたくも申し訳ないといった気持ちです。
猫の葬儀の予約をして、S木さんに電話で葬儀の時間を連絡すると
猫の枕元に折り畳みの小さいテーブルを寄せ、蝋燭風のランプと線香を上げました。
ちょっと一区切りついた感じになったので、猫のそばに戻って、手を合わせて…
改めて猫を見ても、ぱっと見では生きていた時と変わらないです。
でも、確かに身体はあるのに、気配がありません。
魂が入っているのといないのとでは、こういう感じに違うのだなと
改めて思いました。
薄暗い部屋にこうしていると、15年前に亡くなった実母の枕元に
まだ子猫だったこの猫が寄り添っていたのが脳裏に浮かびます。
今は亡くなった猫の横に私。
私の番には誰も傍にいないでしょうが、まぁそれはそれとして。
ノートを取り出してやらなければならないことを順に書き出しながら
何も音のしない部屋で、1人になったなぁと改めて思うのでした。